【帯広・ランナー膝】膝の外側が痛いのは「腸脛靭帯が擦れているから」?研究から考える本当の仕組み

「走っていると、だんだん膝の外側が痛くなる」

「最初は走れるけど、数kmすると痛くなってくる」

「腸脛靭帯が硬いから、ストレッチしてくださいと言われた」

ランニングをしている方なら、一度は「ランナー膝」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

正式には、腸脛靭帯症候群(Iliotibial Band Syndrome:ITBS)と呼ばれるスポーツ障害です。

ランナーに多くみられ、膝の外側に痛みが出る代表的なランニング障害の一つです。2024年のシステマティックレビューでも、ランニング関連障害のおよそ1割を占めるとされています。PubMed

そして、この腸脛靭帯炎。

昔からよく説明されてきたのが、

「腸脛靭帯が膝の骨の上を何度も擦れて炎症を起こす」

というメカニズムです。

だから、

「腸脛靭帯をストレッチしましょう」

「フォームローラーでほぐしましょう」

と言われた経験がある人も多いでしょう。

でも実は現在、

「本当に腸脛靭帯が骨の上を前後に擦れているのか?」

というところから見直されています。

今回は「膝以外にも原因があります」という話をする前に、そもそも腸脛靭帯とは何なのか、膝の外側では何が起こっていると考えられているのかを掘り下げます。


そもそも「腸脛靭帯」って何?

名前だけ聞くと、

「太ももの外側に一本の硬い靭帯が走っている」

ようなイメージを持つかもしれません。

しかし腸脛靭帯は、独立したロープのような組織ではありません。

太ももを包んでいる大腿筋膜が外側で厚くなった部分です。

上側では大殿筋や大腿筋膜張筋などとも関係し、下側では脛骨へ付着します。

つまり腸脛靭帯は、太ももの外側にある大きな筋膜構造の一部です。

そして、この解剖学的特徴が「ランナー膝」の理解を変えるポイントになります。


昔から言われてきた「摩擦説」

ランナー膝は長く、

腸脛靭帯摩擦症候群

とも呼ばれてきました。

膝を曲げ伸ばしすると、

腸脛靭帯が大腿骨外側上顆という膝外側の骨の出っ張りを前後に移動する。

↓

ランニングで何千回も繰り返す。

↓

腸脛靭帯と骨が擦れる。

↓

炎症が起きて痛くなる。

という説明です。

非常に分かりやすいですよね。

しかし、解剖学的に調べてみると、

「本当にそんなふうに腸脛靭帯が前後へ滑っているのか?」

という疑問が出てきました。


実は、腸脛靭帯はそんなに「動けない」

2006年にFaircloughらが報告した解剖学研究は、この従来の考え方に疑問を投げかけました。

腸脛靭帯は大腿骨と線維性組織によってつながっているため、膝を曲げ伸ばしするたびに、一本のベルトのように大腿骨外側上顆を前後へ乗り越えているわけではないと報告されています。PubMed

では、なぜ動いているように見えるのか。

膝の角度によって、

腸脛靭帯の前側と後ろ側の線維の張力が変化する

ことで、前後に移動しているように見える可能性があると考えられています。PubMed

つまり、

「腸脛靭帯が骨の上を行ったり来たりして擦れる」

という昔ながらの説明だけでは、現在の解剖学的知見を十分説明できないのです。


では、膝の外側では何が起こっている?

そこで提唱されているのが、

「摩擦」よりも「圧迫(compression)」

という考え方です。

腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の間には、血管や神経に富んだ脂肪・結合組織があります。

MRIと解剖学的研究では、膝がおよそ30度屈曲したところで、腸脛靭帯がこの領域を大腿骨側へ圧迫することが示されています。PubMed

ランニングでは膝の曲げ伸ばしを何度も繰り返します。

その中で特定の角度を何度も通過し、

腸脛靭帯の深部にある組織へ繰り返し圧迫ストレスが加わる。

これが痛みに関係している可能性がある、という考え方です。

現在もITBSの発症メカニズムが完全に解明されたわけではありませんが、2024年のレビューでも従来の摩擦モデルではなく、外側上顆付近でのインピンジメント・圧迫という考え方が紹介されています。PubMed Central (PMC)


「腸脛靭帯炎」という名前も少しややこしい

ここまで読むと、

「じゃあ腸脛靭帯そのものが炎症を起こしているわけではないの?」

と思いますよね。

これも重要です。

一般には「腸脛靭帯炎」という名称が広く使われています。

しかし研究では、

腸脛靭帯そのものが単純に擦れて炎症を起こしている

というモデルだけでは説明できないことが分かってきました。

そのため英語では、

Iliotibial Band Syndrome(ITBS)

という表現が一般的です。

日本語でも「腸脛靭帯症候群」と考えた方が、現在の理解には近いかもしれません。


なぜ「走り始めは大丈夫」なのに途中から痛くなる?

ランナー膝の相談で非常によく聞くのが、

「最初の2〜3kmは大丈夫なんです」

「5kmくらいから痛くなります」

「歩くと楽になるけど、また走ると痛いです」

という話です。

これがランニング障害の難しいところです。

日常生活ではそれほど負荷がかからなくても、

ランニングでは同じ動きを何百回、何千回と繰り返します。

1回では問題にならない負荷でも、

反復することで許容量を超える

可能性があります。

だからランナー膝を評価するとき、

「しゃがんで痛いですか?」

だけでは十分ではありません。

何kmで痛くなるのか。

どのくらいのペースで痛くなるのか。

坂道ではどうなのか。

練習量を最近増やしていないか。

こうした「負荷の量」も非常に重要な情報になります。


「腸脛靭帯が硬いからストレッチ」は正解?

ここも一度整理しておきましょう。

ランナー膝になると、

「腸脛靭帯が硬いですね」

「腸脛靭帯を伸ばしましょう」

と言われることがあります。

もちろん、周辺組織の柔軟性や症状に応じてストレッチを取り入れること自体を否定する必要はありません。

ただし、

「腸脛靭帯が硬い → 骨と擦れる → だから伸ばせば解決」

と単純化するのは注意が必要です。

そもそも腸脛靭帯は大腿筋膜の厚くなった強い結合組織です。

そして先ほど説明した通り、現在は「骨の上を前後に滑って摩擦する」という従来のモデル自体が見直されています。PubMed

だから、

「腸脛靭帯を伸ばすことだけ」

をゴールにする必要はありません。


では、何をしたらいい?

2024年に発表されたシステマティックレビューでは、ランナーのITBSに対する保存療法13研究・201名が検討されています。

研究間の違いが大きいため「これが絶対に一番」と言える治療法はまだ確立されていません。

一方で、股関節外転筋の筋力トレーニングは複数の研究で用いられていた代表的な介入でした。歩行・ランニングフォームの再学習についても期待されていますが、より質の高い研究が必要とされています。PubMed

ここで重要なのは、

「お尻を鍛えれば治る」

と置き換えないことです。

ランナー膝については、多くのバイオメカニクス研究がありますが、何が「原因」なのかについてはまだ不確実な部分があります。

2015年のシステマティックレビューでは、ITBSを発症した女性ランナーで股関節内転や膝内旋などとの関連が報告された一方、研究数の少なさや方法論上の問題から、明確な臨床的結論を出すには不十分とされています。PubMed Central (PMC)

つまり、

「あなたのランナー膝の原因は、お尻の筋力不足です」

と全員に言い切れるほど単純ではありません。


ランナー膝で意外と大事な「走る量」

フォームや筋力の話をすると、つい身体だけに目が向きます。

でもランニング障害では、

トレーニングそのもの

も忘れてはいけません。

例えば、

最近ランニングを始めた。

急に距離を伸ばした。

大会に向けて走る回数を増やした。

スピード練習を始めた。

坂道を増やした。

休養日が減った。

こうした変化が症状と重なっていないか確認します。

身体をどれだけ整えても、

現在耐えられる量を超えて走り続ければ、症状が続く可能性があります。

逆に、痛いからと何週間も完全に何もしないことだけが唯一の方法とも限りません。

どこまでなら走れるのか。

何を減らすのか。

何を残すのか。

どうやって元の距離へ戻すのか。

ランナーにとっては、この調整がとても重要です。


「フォームを直せば治る」とも限らない

ランニングフォームについても研究されています。

股関節の内転。

膝の内旋。

体幹の傾き。

接地の仕方。

さまざまな要素が調べられてきました。

しかし、ITBSのバイオメカニクスに関する研究では、報告されている因子が非常に多く、結果も一貫しているわけではありません。より新しいランニング障害のシステマティックレビューでも、ITBSについて多数の候補因子が研究されている一方、エビデンスの強さにはばらつきがあります。PubMed Central (PMC)

だからATHBASE整体院でも、

「このフォームだからランナー膝になりました」

と動画一本だけで決めつけることはしません。

症状。

走行距離。

ペース。

練習内容。

筋力。

動き。

競技歴。

これらを合わせて考えていきます。


ATHBASE整体院では「何kmで痛くなるか」まで聞きます

ランナー膝の評価で、

「膝の外側が痛いんですね」

だけでは情報が足りません。

例えば、

3kmまでは問題ない。

5kmから痛い。

10kmは走れない。

下り坂だけ痛い。

翌日は痛くない。

ペースを上げると痛い。

こうした違いには意味があります。

なぜなら、

「どこまで負荷に耐えられているのか」

を知るヒントになるからです。

ATHBASE整体院では膝の状態を確認するだけでなく、必要に応じてランニング動作や現在の練習量まで確認し、

「走るのを全部やめる」か「我慢して走る」かの二択ではなく、今できるラインを探す

ことを大切にしています。


ランナー膝だと思っていたら、違うこともある

膝の外側が痛いからといって、すべてが腸脛靭帯症候群とは限りません。

外側半月板。

外側側副靱帯。

大腿二頭筋腱。

膝蓋大腿関節。

その他の膝関節内の問題など、膝外側の痛みにはさまざまな可能性があります。

特に、

外傷後に強く痛む。

腫れが強い。

膝が引っかかる・ロックする。

体重をかけるのが難しい。

安静にしていても強く痛む。

といった場合は、自己判断で「ランナー膝」と決めず、整形外科での診察や画像検査を検討してください。


まとめ|ランナー膝=「腸脛靭帯が擦れている」だけではない

ランナー膝について昔から使われてきた、

「硬くなった腸脛靭帯が骨の上を擦れて炎症を起こす」

という説明。

非常に分かりやすいですが、現在の解剖学的研究では、それだけでは説明できないことが分かっています。

腸脛靭帯は大腿骨側にも固定されており、骨の上を大きく前後へ滑る構造ではありません。

むしろ、膝の屈曲に伴う深部組織への圧迫が症状に関与するという考え方があります。PubMed

そして実際のランナーでは、

どのくらい走ると痛むのか。

ここを無視できません。

「腸脛靭帯をほぐす」だけではなく、

現在の症状と走れる距離を把握して、必要な運動を行い、負荷を調整しながら少しずつランニングへ戻していく。

ランナー膝では、そんな考え方も大切です。

十勝・帯広で、

「走ると膝の外側が痛い」

「大会が近いのに距離を伸ばせない」

「休むと良くなるけど、走るとまた痛む」

「フォームローラーやストレッチをしても繰り返す」

という方は、ATHBASE整体院へお気軽にご相談ください。

走ることを諦める前に、まず“今どこまで走れるのか”から一緒に考えていきましょう。


参考文献

Fairclough J, et al. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee: implications for understanding iliotibial band syndrome. J Anat. 2006. PubMed

Fairclough J, et al. Is iliotibial band syndrome really a friction syndrome? J Sci Med Sport. 2007. PubMed

Sanchez-Alvarado A, et al. Effects of conservative treatment strategies for iliotibial band syndrome on pain and function in runners: a systematic review. Front Sports Act Living. 2024. PubMed

Aderem J, Louw QA. Biomechanical risk factors associated with iliotibial band syndrome in runners: a systematic review. BMC Musculoskelet Disord. 2015.

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